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『イザベラ・バードの日本紀行』

公開日: : 書籍・雑誌

前々から気になっていた『イザベラ・バードの日本紀行』がKindleで割引になっていたので購入した。

イザベラ・バードの日本紀行 (上) (講談社学術文庫 1871)
イザベラ・バード
講談社
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イザベラ・バードの日本紀行 (下) (講談社学術文庫 1872)
イザベラ・バード
講談社
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1878年(明治11年)に来日し、単身で日本の東北地方〜北海道を旅行した英国人女性イザベラ・バードの旅行記。内容的には”公に向 けて学術的に発表をする”というものではなく、近親者に向けて書かれた手紙を再構成したもの、となっているので、イザベラ自身が見たもの聞いたもの食べたものが主観的に、率直な意見や身も蓋もない感想のまま綴られていて、そこから浮かび上がる開国まもない日本の姿はとても興味深い。

容姿は醜く、胸が凹んでいて、男性はほぼ裸(褌一丁?)。諸外国から人も集まる東京・横浜あたりでは服を着るように指導はされているけど、刺青を入れた車夫たちが街中を裸でクルマ引いたりしている。

人は優しく無作法なことはなく、治安も非常にいい。女性一人で旅行をしていても危険を感じることはまったくない。

日光以北の地方はまだまだ立ち後れているところも多い。男の子はほとんど服を着ておらず、皮膚病を患っている子どもも多く、大人の女性も上半身裸だったりしている。住居は薄暗く煙っぽく不衛生で、畳は蚤の住処となっていて、蚊も多い。宿屋も狭く、部屋を隔てているのは障子のみで、しかも初めての「外国人」を見ようと宿屋の他の客や地元住民が障子に穴を空けて覗いたり、ひどい時は「外国人」を見ようとして隣の家の屋根に上がり、人が乗り過ぎて屋根が落ちたりしている。

イザベラの目から見た世界ではあるけど、当時の外国人から見たら実際そんな世界だったのだろうし、その世界もなんとなく想像ができて面白い。今までそういう視点での日本を知ることがなかった。

そんな状況の中、しかもこの年は例年にない豪雨だったようで、満足な雨具もなく、泥濘んだ道を歩み、貧弱な馬で峠を越え、増水した川を渡りながら東北を目指す。

東京から春日部を経て日光に入り、陸路の山形〜横手を抜け青森に到着する、という今の時代であってもしんどい道のりを、一人の通訳のみを道連れに、特段当時の日本文化に精通しているわけでもない外国人が旅した・できたことに正直驚く。どんな情熱が彼女を前に進ませたのだろうか。ただ「まだ外国人が足を踏み入れてない場所を旅したい」というだけじゃないように思うのだけど。

過酷な旅で体調を崩し神経をすり減らしながらも、美しい風景を愛で、日光の魅力に感嘆し、地方の宿屋の食事内容を嘆き、日本人の礼儀正しさを前に自国を恥じ、宗教になんら関心を持たない人々を不思議そうに観察する。その冷静さと愛情を持った視点はほんとうに素晴らしい。

近親者への手紙という形を取りつつも、各パートでは地名やその地域の規模や風土がきちんと記されているので、地図を片手に読む事でイザベラと一緒に旅をしている気分になれる。今でいうところのblogに近いんじゃないだろうか。

その東京を出発してから青森までの記録が上巻。下巻は北海道に渡り函館を起点に内浦湾周辺のアイヌと共に生活し、そして一旦神戸に渡り京都・奈良を経由して伊勢神宮まで往復する旅をしている。

もはや想像もつかないアイヌたちの生活も、当時としても精錬された京都・奈良の文化も面白かったが、僕が下巻で好きなのは京都・西本願寺住職の赤松連城氏との長い宗教談義の部分。歴史が大きく動く中でも信仰に救いを求めない日本人を不思議に思っているのか、仏教のみならず神道や布教が始まったキリスト教にまでイザベラはさまざまな質問を投げかけ、それに対して赤松氏も的確に答えを返していく。その先に、当時の日本人のメンタリティがうっすらと透けて見えた気がした。

時代物というわけでも歴史物というわけでもない。開国間もない日本の状況を記した学術的な記録というわけでもない。1旅行者から見た主観的な旅行記なのだけど、それゆえ市井の人々や街並がリアルに描かれていて、知らなかった日本の姿が見えてきてとても面白かった。こんな適当なレビューで恐縮だけど、ぜひ一度読んでみて欲しい。

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