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スティーヴン・キング『11/22/63』

公開日: : 書籍・雑誌

Facebookのニュースフィード上で友人の絶賛する投稿を見かけて購入したが、上下巻で1000ページを越える超大作であることには届いてから気付く。ただ面白くて久しぶりに読書に集中した。そして今回はいろいろ思うこともあったので真面目なレビューを書く。

11/22/63 上

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11/22/63 下

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この『11/22/63』、超ざっくり言うと「タイムトラベル」ものだ。

「タイムトラベル」ってネタとしてはだいぶ使い古された印象がある。パターン化され過ぎてて目新しさがない、というか。だからこの小説ではタイムトラベル設定をだいぶ捻くり回していて、冒頭で主人公ジェイクと一緒に読者もアルから徹底的にゲームのルールを叩き込まれることになる。その必死さというか執拗さにはちょっと苦笑いが出てしまうが、もちろんガンに冒されて思いを遂げられないアルの立場を考えれば笑うところではないのは分かる。でもこの小説における「アルの思い」というのはイコール「著者スティーヴン・キングの思い」でもあって、なので最後までストーリーについてきてもらうために必要な儀式なのだろう。

そして「アルの思い」=「著者の思い」だから、1963年11月22日の「あの事件」が起きなければ、という考えはきっとキング自身がずっと引っかかっていたことなのだろうし、その後に続くベトナム戦争70年代アメリカの急激な景気後退は、あの時代を共有したアメリカ人からするとかなりなトラウマなのだろう。小説にしろ映画にしろ、あの事件を扱う作品の多さや今になっても尽きない陰謀論は、単に事件そのもののミステリアスさだけでは無いのだと思う。

だからこそ煤煙と悪臭に覆われたデリーやダラスの陰鬱な描写と対比するジョーディーの描写は印象的だ。セイディーを筆頭に純朴で優しく道徳的な人たち。屈託なく明るく朗らかに踊る古き良きアメリカは、主人公ジェイクのみならずキング自身の望んでいた社会であり、多くのアメリカ人の憧れなのだろう。そして、「あの事件」が起きなければその社会が続いていたかもしれない、という幻想から今でも抜けきれない人がいるのだと思う。

それでもキングは、今の時代が決して”仕方なく選択された”社会ではない、と考えている。たとえ歴史が冷徹であり、僕らに仕返ししてくるものだとしても、僕らは僕らで手に届く範囲でベストを尽くしてきたのであって、だからこそ僕らはここでしか生きられないのだと。もしくはそう思いたいという諦めに近い希望なのかもしれない。

エンディングはとてもスイートだ。あの文量からいえば選択肢としては様々な可能性があっただろう。その中からあのエンディングを選んだのはやはりベテランの技量なのだと思う。「ありふれている」と感じる人もいると思うけど、僕はあれで充分だと思った。それまでで充分お腹いっぱいだったから、あれ以上の味付けは過剰でしかない。

あとがきにあるように大量の文献を元に築き上げられた世界観は多分な創作を含みつつも精緻であり、音や臭い味覚まで伝わってくるくらい見事なものだった。濃厚なルートビア、走る愉しみが感じられるクルマ、リンディポップのステップ、そして「二十日鼠と人間」での喝采。辛く苦い思いも押し寄せてくるが、ジェイクと一緒に旅する体験はとても貴重なものだった。その体験を与えてくれた著者スティーヴン・キングには感謝の思いしかない。あときっかけをくれた友人にも。

良い作品をありがとう。

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