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【書評】『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』 〜 これからの福島を考える「種」

公開日: : 最終更新日:2014/09/20 書籍・雑誌

最初に僕自身の原発へのスタンスを書いておくと、「原則廃止、ただしすぐにすべて停止・廃炉は現実的ではないので、新規建設はせず段階的に廃炉にしつつ、代替え手段の確立を目指して行く」という考えです。とはいえ昔から考えてたわけじゃなく、というか今までは全然考えてなくて、震災以降のことですが。

東日本大震災から2年以上が経って福島第一原発の話題がメディアに出てくる事も減り、僕も普段の会話に中で取り上げられることも無くなってきている。関心高い人たちによる激しい議論が続いているのは知っているが、積極推進か完全廃炉かの0/1の話になっているようで、どちらも極論過ぎて受け入れる事ができない。化石燃料に依存するリスクは避けた方がいいけど、とはいえ今回の福島の事故のようなことが今後も考えられる以上は原発は可能な限り排除して行くべきだと思う。が、代替えエネルギーをどうするのか、など考えると正直どうしていいのかわからない。そうして考えるのをやめてしまっている。

なので今回『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』を読んだのも、福島の問題に強い関心があったから、というわけでもなく、どちらかというとたまたま。ダイヤモンドの連載をよく読んでいた開沼博氏が参加してる、というのが大きかったかもしれない。

結果として読んで良かった。

福島第一原発を観光地化するかどうか、というのが正解かどうかはわからない。地元でも様々な意見もあるだろうし、日本独特の考えもあるのでチェルノブイリのようにはいかない可能性もある。ただ観光地化も「数ある答えのうちの一つ」であり、大切なのは、その答えを考えていくこと(そして実行すること)。放射能問題は10年20年では終わらず、僕らはずっとこれと向き合っていかないといけない。どう考え、どう向き合っていくべきなのか、この本はそういうことを考える「種」を与えてくれる。そして、震災から”まだ2年”であって、考えるのをやめてしまう時期ではない、と気付かせてくれる。

本は大きく分けて前半・後半の2部構成になっていて、前半はチェルノブイリツアーのガイド本として、後半は現地で働くウクライナの人たちのインタビューを中心とした取材記として構成されてる。魅力的な写真(撮影時の放射線レベルの計測値付き!)が豊富なガイド本としても充分な内容なのだけど、やはり一番のポイントは現地で働く人たちのインタビュー。日頃見聞きすることがない内容なのでとても興味深かった。

「現地で働いている」という部分でインタビューイーたちの考え方に一定のバイアスはかかっているだろうし、事故から27年という時間の流れの中で現地の人たちの考え方も事故直後からかなり変わったのだと思うけど(それはそれで重要なことではある)、それでも彼らはとても冷静に、合理的に、これからのチェルノブイリを考えている。ロシアとの関係もあり石油に依存できないウクライナは現状も、当分の間も原子力に頼っていかなければならない。そういう中でチェルノブイリ事故としっかり向き合い、未来に繋いでいくために行動している。

もちろんウクライナと日本では人口も国土も社会・思想も違う。福島とチェルノブイリでは事故の内容も規模も違う。だから、かれらのやっている事をまるまる真似ればいいわけじゃないのはわかる。だけど、そこから僕らが学ぶべき事はとても多いように思う。学んで、現実的な答えを探していくしかないのではないだろうか。

印象に残ったのは、チェルノブイリ博物館副館長のアンナ・コロレーヴスカさんのインタビューにあった言葉。「博物館の目的をひとことでいうと」という質問に対してこう答えている

わたしたちの課題は、犠牲者、目撃者、事故処理員ら、何千もの人々の運命を通して、今日、世界の産業の発展においてもっとも重要なものだとされている原子力における事故がどういうものなのかを示すことです。(中略)わたしたちは危機に瀕している。しかし石器時代には戻れない。黄金の中庸を見つけるべきなのです。高度な科学技術と折り合いをつけながらも、自分で自分をだめにしてしまわないようにすること。これがわたしたちの目指すところです。

黄金の中庸を見つけるべきなのだと思う。「ぬるいこと言うな」と思う人もいるだろうけど、僕はこの箇所を読んでちょっと涙ぐんでしまった。

最初にも書いたけど、だからと行って、福島第一原発を観光地化すべきか、というのは正直わからない。事故から”まだ2年”で事故処理も終わっておらず、世の中もまだそういう議論にならない、というのもあるのだと思う。「早く忘れたい」と考える被災者もいるだろうし、興味本位で来る人を堪え難く感じる現地の人もいるだろう。ただ、だからといって、考える事をやめてしまうといずれ「なかったこと」として片付けられ、忘れ去られてしまうだろう。僕らはかつて数々のことをなかったことにしてきた実績がある。「未来の日本のために」「子供たちの将来のために」原子力・原発をどうしていくのか、を考えていくなら、推進か廃炉か、という議論の他にも、こういったテーマに付いてもきちんと議論し実施していく必要がある。

観光地化、という明るくホワンとした言葉からは想像できない、いままで気付かなかった角度からしっかりした提案をしてくれる。興味ある人はもちろん、漠然とした不安を持ちつつあまり関心を持ってこなかった人(つまり僕のようなタイプ)も一度読むべき良書だと思います。強くオススメ。

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