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『浮世の画家』

公開日: : 書籍・雑誌

立て続けですが、カズオ・イシグロの『浮世の画家』、読了しました。

かつては影響力ある画家として多くの弟子に囲まれて活動していたが、今はもう筆を折り隠居の身として暮らしている主人公。その彼の視点と過去の回想を通して、家族や世間第二次世界大戦を前後して大きく変わる価値観と、それに取り残され家族や世間の人々の関係に悩む自身の姿が描かれている。

先に読んだ『遠い山なみの光』やブッカー賞受賞作で映画にもなった『日の名残り』と同じように、もっととも核心部分は語られていない。それは主人公にとってもあまり触れたくないこと、思いだしたくないことで、でもその核心部分こそが今置かれている自身が状況の原因になっていてそのことを後悔し反省もするのだけど、それでもまたその部分はかつては良かれと思って行ったことでもあり決して否定はしたくない、そういう主人公の複雑な心境が、主人公の絵の師匠でもある森山さんがかつての日本の伝統的な表現方法を排し光と影を重ねることで浮き世の世界を表現したかのように、直接的な表現ではなく輪郭をなぞって像を結ぶような表現で描かれている。逆にそういう淡い表現をすることで本当の核心部分が浮き立ってくる、その描き方は素晴らしい。

著書がいくつかあるけどボリュームと読み易さもあって、カズオ・イシグロを初めて読むならこれが一番良いと思います。

浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)
カズオ イシグロ
早川書房
売り上げランキング: 118188
おすすめ度の平均: 3.5

4 カズオ・イシグロ入門編
3 傷を「自分のもの」として受け入れて生きていく

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