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『 イントゥ・ザ・ワイルド 』

公開日: : 心と体, 映画・テレビ

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 俳優として数々の賞を獲得し、監督業でもハリウッドの中で異色の作品を輩出し、それがどれもまた高い評価を得ているショーン・ペンの監督作品。その最新作『 イントゥ・ザ・ワイルド 』を試写で見てきました。

 もとより僕が青春映画好きということを差し引いても、久々に心に残る美しい映画でしたよ。2時間半の長めの作品なのでゆったりしたふかふかのスクリーンのシートで落ち着いて見て欲しい作品です。

 以下、ネタばれあり。

 裕福な家庭に生まれ育ち、学校での成績は優秀、スポーツも万能という本来なら何不自由無いはずのクリス。しかしその家庭は表向きこそは平穏を装っているが実は両親の間では争いが絶えず、さらに自分の”家族”の本当の姿、自分の本当の”境遇”を知ってからは、両親に対して激しい憎悪を抱くようになり、自分という人間のアイデンティティを見つめ直すようなる。
 そして大学を卒業するのと同時に、自分の預金をすべて寄付し、車を捨て、カードを捨て、キャッシュも燃やし、自分の名前すら捨てて、誰にも何も言わず旅に出る。

 アラスカの原野で餓死した遺体が発見され、調べるとヴァージニアの裕福な家庭に生まれ育った大学を卒業したばかりの青年だった、という実話をまとめたノンフィクション作品『荒野へ』を元に描かれた作品。
 クリス自身は自分の心情は殆ど何も語らず、彼の周りの人・事を丁寧に描くことでそれを浮かび上がらせる、それがしっかりと丁寧に描かれている。148分にわたる映画ではあるのですが長さはあまり感じない。逆に23年で終えた彼の人生の、今回描かれなかった部分をもっと知りたいと思えるくらい。

 「現代人は知識ばかりを追いかけている。知識は過去のものであって、知恵は未来のものであるのに」というのはランビー・インディアンの長老の言葉。

 クリスは読書家で多くの書物の中から知識を得て、それは確かに自分の”境遇(過去)”から距離を置くのには効果的だったのだけれども、その知識を信じ(愛し)過ぎるがために、これから生きるための知恵(叡智)の必要性に少し気付くのが遅れる。結局映画の中ではその気付きの遅さが致命傷に繋がっていってしまう。

 もちろん良識ある人として知識は必要で、でもクリスのように全てをそぎ落とした”人”として必要になってくるのはやはり知恵(叡智)であって、それを獲得していくにはやはり人との関わりあいがまた必要になってくるのだと思う。クリスは折角その機会を多く持ち、それを獲得してきたのだけれど、それそのものの必要性を少し蔑ろにしてきている。もちろんそれは彼自身の生まれ育ってきた環境や彼の境遇からくるものだから仕方ない面もあるのだけれど。

 もしくはクリスはもがいて、縦にも横にも上下にも、”自分”として生きて行くための知識の獲得に動き回るのだけれど、もう一つの軸によって知識を知恵に替えていくことができなかったのかもしれない。そのもう一つの軸が「時間」で、彼はそこがあまりにも短かったのだと思う。

 とはいえ、知識とか知恵とかの話しはまた別に、自分のアイデンティティを見つめなおし、自身が囚われているもの、余分なものをそぎ落として生きていく、というのは誰も憧れつつも実現できないもので、クリスはそれを実現し、かつ本当は何が必要なのかを(結果はどうあれ)知ることが出来た、というのは羨ましい。僕はもう怖さを十分知ってしまっているので何もかもそぎ落として生きるなんてことはできないし。

 また正直なところ、ちょっとクリスをカッコよく描きすぎる気もする。ストイックで、自分に厳しく、そして誰にでも優しく、誠実。そんな誰もが憧れる「同性がカッコいいと思う男性像」をクリスは体現しすぎているのだけれど、でも憧れているからこそクリスの生き様(死に様)は心にグッとくる。
 あまりに男が思う「カッコいい生き様(死に様)」過ぎて、女性がドン引きするかと思ったのだけれど、見た知人に聞く限り女性もやはりクリスには共感できるところが多いのだという。そういう生き方への共感は性別関係ないのかもね。

 あと一つ、映画に使われている音楽が素晴らしい。ミュージカルとか音楽性を売りにした映画以外では久々に『ブロークン・フラワーズ』以来にサントラを買った。

 ちょっとまとまらなくなってきたのだけど、ともかくここ最近見たでは一番のオススメ。2008年9月6日よりシャンテシネ、テアトルタイムズスクエアほか全国にて公開です。

オリジナル・サウンドトラック“イントゥ・ザ・ワイルド”
エディ・ヴェダー
BMG JAPAN (2007-11-21)
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おすすめ度の平均: 5.0

5 シリアスなルーツ的アメリカンロック

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Comment

  1. Andre's Review より:

    映画「イントゥ・ザ・ワイルド」@試写会

    into the wild 2007年 アメリカ @試写会(9月6日公開予定) 珍しく2日連続試写会。ショーン・ペン監督で全米でベストセラーになったノンフィクション「荒野へ」を映画化した作品。観る前は2時間半という長さにちょっと不安を感じていたんですが、観始めたらあっという間でした。 1990年の夏、優秀な成績で大学を卒業し、ハーバードのロースクールへの進学も決まっていた青年クリトファー・マッカンドレスは、貯金を全て寄付し、カードや現金も全て処分して、誰にも何も告げず一人旅に出る。 それから2年…

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