*

『犬が星見た〜ロシア旅行』

公開日: : 書籍・雑誌

 『富士日記』繋がりで、武田百合子著『犬が星見た』を読了しました。

 昭和44年(1969年)の6月から約1ヶ月をかけて、ナホトカからモスクワまでロシア(当時はソ連)を横断、最後にスウェーデンを回って帰ってくる旅行を記した旅行記、というか本当に日記。特に観光ポイントについて語ったりもせず、同行の夫の武田泰淳竹内好、ほかのツアーメンバーの言動や、旅先での現地の人たちとの日常的なやり取りが著者視点で淡々と描かれている。その淡々さ具合がストレートで、瑞々しくて、読んでいて面白い。

 よくわからない現地の言葉で熱心に話しかけられ「キレイですね、って言われてるんだったら気持ちいいな、ウフフ」と思ってニヤニヤしたり、なんとなく会話が成立すると「ロシア語がすごい上手くなった!」と心の中でガッツポーツしてる様も可愛らしい。

 興味深いのは夫の武田泰淳と著者との関係。買い物や交渉などはまかせっきり、そのわりに食べ物や観光先など自分の思い通りにならないと拗ね、怒り出し、挙げ句の果てに「うんこしたいから」という子供みたいな理由で突然帰りたいと言い出したりとワガママ放題の夫と、「どうだ、旅行は楽しいか?」なんて”旅行に連れていってやってるんだから感謝しろよ”感全開の夫の問いに、確かに(自分の収入は無いから)日頃食べさせてもらってるし、この旅行も連れてってもらってるし、とは思っていても特に何か遠慮したり気を使ったりもせず「まだ特に。これから面白くなるんじゃないの?」みたいに答える著者のセンス。今だったら絶対怒るだろう、みたいな夫婦間のコミュニケーションも、この人の言葉を通すと妙におかしくて、内弁慶で傍若無人な夫もちょっと可愛らしく見えてくる。「酒買って来い」と言われ勝手の知らぬ街で2時間歩き回って戻ってくると、旅先のロシアで妻に逃げられたと勘違いしてシュンとしている夫が待っていた、というエピソードとか、この夫婦不思議(笑)

 興味があれば何処にでもトコトコと出かけていき、見知らぬ人にも気にせず話しかける著者を「思慮が足らず(バカ)、ガサツ」と思ってか”ポチ”と犬呼ばわりする夫に怒るわけでもなく、とはいえ気後れするわけでもなく、最後に日記を出版するに当たって、それを本のタイトルにしちゃうセンス。素敵です。

 時代感はだいぶ違うけど、このストレートな言葉使いからくる旅行記、本当に面白かった。こういうの(旅行記じゃなくても)いつか書けるといいなぁ、と思うけど、やっぱり天賦の才なんだろうなぁ。

犬が星見た―ロシア旅行 (中公文庫)
武田 百合子
中央公論新社 (1982/01)
売り上げランキング: 10048
おすすめ度の平均: 5.0

5 平凡にして非凡な境地
5 なんて素直な紀行文
5 私の好きな人

ad

関連記事

no image

『イザベラ・バードの日本紀行』

前々から気になっていた『イザベラ・バードの日本紀行』がKindleで割引になっていたので購入した。

記事を読む

no image

『砂の女』

読む本に「間」が出来たので本棚を漁って久しぶりに阿部公房を手に取った。『夢の逃亡』はもうずっと枕元に

記事を読む

【書評】『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』 〜 これからの福島を考える「種」

最初に僕自身の原発へのスタンスを書いておくと、「原則廃止、ただしすぐにすべて停止・廃炉は現実的ではな

記事を読む

『 子どもが聴いてくれる話し方と子どもが話してくれる聴き方 大全 』 ー 良かれと思ってやってることが何一つうまくいかずに育児に悩んでいるすべての親に

ここ1年くらい娘との関係に結構悩んでいた。子育てにおける父親のロールはこうあるべきとか、「自分の子に

記事を読む

no image

グレート生活アドベンチャー

タイトルだけでもう買うことを決めてしまった。スゴイ。 ”生活”は英語で「life」で、でも「l

記事を読む

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ad

  • プロフィール写真
    2003年にブームに乗ってblogを開始、するものの生来の飽きっぽさゆえに、blogを立ち上げては消し、立ち上げては消しを繰り返し、2007年から…。→続きを読む
    follow us in feedly
PAGE TOP ↑